自己紹介

Japan
仕事:心カテ屋。2008年6月から、CAへ渡米、2011年5月帰国。 プライベートでの興味:FX、車、洋服、旅行、音楽、サーフィン、ギター、総合格闘技観戦など。

2010年10月6日水曜日

TAVI

前病院のN先生がTCT終了後、大学病院にTAVIの実際、を見学に来ました。
TAVIとはTranscatheter Aortic Valve Implantationの略です。
ご存知のように、心臓は自分で収縮、拡張を繰り返し、大動脈を通って血液を全身に送っているポンプのような臓器ですが、心臓と大動脈の間に大動脈弁、という逆流防止の弁が付いています。
実際に直視すると、どんな精密機械もまねできないほど絶妙なタイミングで開閉しており、生命の神秘を感じざるを得ません。

近年高齢化に伴い、この大動脈弁にカルシウムが沈着し、弁自身が硬化し、弁の開閉が上手くできなくなる病気が増えています。この病名を「大動脈弁狭窄症」と言います。
元来この病気の治療は、心臓手術が唯一の根治治療で、開胸下に大動脈弁を人工弁に取り替える手術が必要でした。ただし開胸手術ですから侵襲が大きく、高齢の患者さんに多い大動脈弁狭窄症の治療として選択できないことも良くありました。実際、80歳以上の高齢患者さんの大動脈弁狭窄症をどう治療するか、というのは我々循環器内科医にとっていつも議論を呼ぶ所でした。

手術適応があるのだけど高齢過ぎて、もしくは全身状態が余り良くなくて人工弁置換術に耐えることが出来ない。そんな患者さんに一筋の光明となったのがTAVIです。TAVIは開胸せずに、カテーテルを使って大動脈弁を人工弁に変える手技で、開胸しませんから身体への侵襲が少なくて済みます。現在アメリカでは実際に臨床利用されておりますが、日本では正式に保険償還はされていません。簡単に言えば特例を除いて、日本ではTAVIをまだ受けることが出来ません。

ただ、その手技の有効性から、ブレイクスルーを果たしそうになりつつあります。今、世界中のインターベンション医の注目がTAVIなどの弁疾患の治療に注がれていると言っても過言ではありません。今後日本に導入された際を見据えて、N先生も見学に来られたというわけです。

この日は、朝8時から2件のTAVIが予定されていました。私も今まで学会でのライブ放送や、S大学で直接見ても手技の一部を見ることしかできていなかったため、最初から見る良い機会でした。TAVIは導入直後は色々とトラブルも多く、私もこれは実臨床で使用できる日が来るのか?と眉唾でしたが、手技のラーニングカーブがあるのでしょうか、この日の2件は非常に手際よく進められ、結果も良いように思えました。大事なのは弁の位置決めですね、これに尽きると思います。やはり100mmHg近くある術前の圧較差が、一瞬のうちに消失するのは気持ちいいことこの上ありません。

この日の患者さんも88歳と92歳!ですから、本当にTAVIの良い適応なのです。
ただ手技は少しのミスが文字通り命取りになります。心臓外科と循環器内科、麻酔科間の良好なコラボレーションが必須です。
循環器内科単独で進めている所も多いようですが、今の段階では心臓外科のバックアップは必須ですね。冠動脈ステント術が爆発的に普及し心臓バイパス術が減ってしまった心臓外科医の最後の砦、とも言って良かった弁疾患の治療ですが今日のTAVIを見る限りかなりの症例が適応になっていくように思えます。とは言え、TAVIの対象になる患者さんは、基本外科手術が行えない患者さんがメインなので、外科の患者さんを奪っていくと言うことはそれほどない様に思えます。そういう意味で、外科の先生も頭を切り換えてTAVIに積極的に絡んでいって欲しいと思います。

日本導入のタイミングですが、一般的に日本で行われるようになるにはまだ4,5年かかるのでは、と個人的に思っています。欧米とのデバイスラグ、ドラッグラグが叫ばれる今日この頃ですが、私個人的にはデバイスラグにそれほど危機感を余り感じていなくて、もし本当に欧米並のスピードでデバイス導入を希望するのならば、まずこの保険制度をなんとかすべきです。このまま新しい医療機器がどんどん導入され、益々高額医療での出費が増えていけば、今のままでは日本の保険制度は破綻します。では、自費診療も取り入れた混合医療にすればいいかというと、混合診療分の中に保険償還をされる部分が出てきますので、結果的にこれも財政を圧迫します。では100%自費診療にすればいいのでは?という話になってしまうところです。
日本の医療制度は、良い意味で共産主義です。誰もが公平に、安価に、平均的に良い医療を受けられるのが日本の医療の素晴らしい所です。みんながアクセシブルな医療だけに、一番大事にしなければいけないことは、「死なない」ことだと思っています。。
まずは長期的安全性がある程度確約されるまで、導入を焦るべきではないと思っています。
長くなりすぎました、この辺りはまた別の機会に!

あ、とりあえずN先生も満足して帰国の途に着きました!

2 件のコメント:

  1. 先日、心外のご高名な先生とお会いする機会があり、ステントのお話などお聞きしました。色々興味がある事ばかりです。
    TAVIってスゴいですね!!医学の進歩ってスゴいですね!
    侵襲が少なくなるのは患者さんにとってもいい事ですよね。
    いい情報をありがとうございました。

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  2. hitomiさん
    お久し振りです!お元気ですか?
    TAVIは有効性は間違いないですけど、安全性と大動脈弁狭窄症の自然予後との天秤を良く見極める必要性がありそうです。
    侵襲が小さくなることは間違いなく良いことでしょうね!
    書き込みありがとうございます。今後もヨロシクね!

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